2023/06/20

2023/6/9 響遊 活動報告

 今回の響遊は『同じ一冊の本を皆が読んで感想を述べ合う』という初めての試みの読書会でした。参加者は8名。その様子をお伝えします。

課題の一冊は今村夏子作「むらさきのスカートの女」という、4月の響遊で高橋さんが紹介してくれた本です。

司会進行の池川さんから、作成配布した資料により「今村夏子の紹介」「あらすじ」「視点」「本日の進め方」について説明があった後、座席順に参加者が感想を述べていきました。参加者各位の感想はイニシャル表記で紹介します。

U:本を読むときは何らかの共感を探すが、この本は面白かったが全く共感できなかった。エッシャーのだまし絵のような文章だなと思った。風変わりな人、孤独な人を観察している女、最初の印象と違って話はどんどん進んで面白かった。すべてが「わたし」の妄想なのかなと思った。

O:「むらさきのスカートの女」は誰なのかと読者の関心はいくが、書評など読んでみると、「むらさき」と「きいろ」、「スカート」と「カーディガン」は対比なのか、ひょっとして同じ人では?と思うと視点としては面白いと思った。

A:作者の紹介エッセイなど読むと、この「わたし」は作者自身で、作者の中にもう一人の自分を作り上げ一人芝居をさせているようだ。その表現力が芥川賞受賞するほどの力量があったのだろう。これはネバーエンディングストーリー終わりのない物語なのかな。読者がこのストーリーの続きを作っていくのかな。女と男、独身女性、正規非正規雇用の問題、女性社会の格差も感じた。

H:本を手に入れることができず読んでいないが…この作家のように40歳位の若い作家の作品は芥川賞や直木賞受賞と言われて読んでみても人生経験が浅いと思い込みあまり読む気がしなかった。佐藤愛子、瀬戸内寂聴、阿川佐和子などまでだった。が、これを機に若い女性作家の本も読んでみようと思った。

Y:Hさんのお話に同年代として同感、OさんAさんの分析も面白いなと思ったが、私が読んだとき感じたのは登場人物がみんな紋切型だということ。結局、作家の頭の中のことで、だから決まった形なのだと思った。実は今日のために色々考えていたら、NHKテレビの再放送で有吉佐和子さんを取り上げていた。有吉さんが良いということではないが、高校生の頃から揺さぶられていた作品と比べると何だか軽いなと…本の後ろにあった随筆集を読んでしまったからか、近頃の人は家の中で普通の生活をしながら簡単に書き上げる、そして賞も受賞する、それだけ頭が良いのかもしれないが…苦悩して書いていた昔の作家とは違うように思ってしまう。面白いかといえば面白かったが…

ⅠK:1回目読んで「なんだこれ」と思ったが、本の表紙が不気味で(紫のスカートから二人分の足)、その意味が知りたくて読み進んだ。「わたし」と「むらさきのスカートの女」は実在するのか、妄想の世界のことなのかなど色々考えた。そこで今村さんの他の作品を読んでみた。芦田愛菜主演で映画化された「星の子」、河合隼雄物語賞受賞の「あひる」、どちらも表現する視点が違う、不思議、不気味と感じた。そして今日のために2回目、ICレコーダーに録音して音読してみた。そうしたらいっぱい気付きがあって、最後に私は泣きそうになっていた。かわいそう…孤独、経済的にも精神的にも満たされていないけど一人で生きていかなければならない女性の姿が見えてきた気がして…。この作家がなぜ多数の賞を受賞しているのかと考えると、他の人とは違う優れた視点を持っていて、それを文章化する力があるのだと思った。1回目は読みやすい面白いで読んだが、2回目は「かわいそう」という感慨があった。

ⅠR:私も最初は「むらさきのスカートの女」が変な人だと思ったが、それを見ている「わたし」の方が中心なのではないかなと読めてきた。実は「むらさきのスカートの女」は行動力やコミュニケーション能力も優れている。問題は「わたし」の方、友達になりたいのにストーカー的行為や犯罪的な行動など病的な感じさえ受けた。ミステリー的要素もあり面白いというか考えさせられた。私が一番気になった「最後の場面」については後程話すことにします。

T:私も今村夏子さんの本を初めて読んだ。最初読んだ時はさらっと読めたが、いったい「むらさきのスカートの女」は誰なのだろうと疑問ばかり残った。でも表紙の絵はスカートから足が二人分出ているし、同じ人物なのか空想の人物か答えの出ないまま、作者は何が言いたいのかモヤモヤ感で読み終わった。そしてもう一回読んでみたら色々気付きがあった。この本は自分自身が遊び心を持って読んだらスゴク面白いと気付いた。なぜなら「黄色いカーディガンの女」は「むらさきのスカートの女」を観察していて、振り回されているけれど結局は「黄色いカーディガンの女」は主人公の「わたし」で、「わたし」の中で「むらさきのスカートの女」を転がして面白がっている空想の中の物語で、「わたし」が楽しんでいるように思った。最後の場面で、「むらさきのスカートの女」専用のベンチに「わたし」が色々あったのに何も無かったかのように座ってしまう、そのキャラクターが面白いなと思った。

参加者8名から述べられた感想は概ね以上のとおりでした。

この後、残り時間で「最後の場面」についての意見交換、作者のエッセイ等から読み取る作者自身の職歴や作家を目指した背景など語り合いました。初めての試みの読書会、色々な見方ができて色々な意見が聞けたこの本は課題として良かったのではないでしょうか、ということで閉会となりました。(記:石井)