2020/12/08

『成人式』( 荻原浩 著 集英社 2016年 ) について ~ 池川 良一



10月のRBCで発表した作品は、『成人式』です。この作品は第155回直木賞作品『海の見える理髪店』の中に収められている短編です。最初は、『海の見える理髪店』を読もうと思っていました。しかし、今回の作品は展開が面白くて決めました。

話の前半は、一人娘を中学校三年生で亡くした夫婦の喪失感や焦燥感が描かれていて重たい雰囲気の情景描写が中心です。後半は、5年後に届いた娘あての成人式の着物のカタログがきっかけとなり、夫婦が成人式に自ら参加しようという驚く展開となります。成人式当日の娘の友人たちとの交流なども描かれています。

作者は、直木賞作家だけあって、細かなところまで目に浮かぶような上手な描写がたくさんあり、素晴らしいストーリーテラーだと思いました。読後感がさわやかな小品です。