2022/11/11

2022/10/21 RBC 活動報告 『水を縫う』~ 上村文恵

 10月のRBCでは、『水を縫う』(寺地はるな作  2020年 集英社刊)を紹介しました。本作は6章からなり、高校1年生の松岡清澄(きよすみ)を中心に母、姉、祖母、別れて暮らす父、父の友人で清澄たち家族と父とをつなぐ黒田、各章が異なる視点から描かれます。清澄が姉 水青(みお)のウェディングドレスを縫ってみたいと思い立ち、物語が展開していきます。しかし彼の提案と姉の希望は平行線のまま、行き詰まってしまいます。RBCの時間では、父 全(ぜん)がドレス作りを引き継いで、見事な仕事ぶりを見せる第5章を中心に音読しました。

「男子なのに手芸が趣味なんて変わってる」「女の子なんだから華やかな服を着たらいいのに」「男は家族を養う責任がある」、各々が周囲から期待される“○○らしさ”とのズレに悩みます。その一方で自分の持つアンコンシャスバイアス※下記注 を他者に押し付けてしまったり…。登場人物たちの前に「不自由さ」や「後ろめたさ」が立ち現れる時、周りの人が何気なくかける言葉、接し方が印象的でした。

例えば、清澄の進路を先回りして過剰に心配する母さつ子に、祖母 文枝がかける「子供には失敗する権利がある」という言葉。ある出来事から、目立つ服装を避けている娘の苦しさに寄り添い、ドレスを形にしていく父。自らは“家族ではない”と一歩引きながらも、絶妙な距離感で親子を支える黒田。その彼に、清澄が感謝を込めて伝える「黒田さんはお父さんの家族だよ」という一言。

 お互い相手のことを「面倒くさい人だなぁ」等と思ったりしながらも、等身大で向き合っています。これまで重ねてきた経験が、それぞれを形作っている。自分の中にも意識していないバイアスが存在する。だからこそ立場や価値観が違ってもそれを受け止め、尊重する柔軟さを持ちたい。そんな気持ちにしてくれる作品でした。

※注  無意識の偏ったものの見方、この物語の場合はステレオタイプ