2023/03/22

2023/3/14 RBC 活動報告

 3月RBC(23年3月14日)作品紹介

◎西加奈子作「炎上する君」角川文庫 2012年初出

◎宮本輝作「階段」文春文庫(『真夏の犬』所収)1988年初出


西加奈子(にしかなこ)<文庫裏表紙から>

1977年テヘラン生まれ、大阪育ち。関西大学法学部卒業後、2004年『あおい』でデビュー。08年『通天閣』で織田作之助賞受賞。

<又吉直樹の解説より>

西さんの作品全てに共通することだが、物語の核心部分に内包された深刻なテーマと笑いが乖離せず一つの物語になるのは選ばれた才能だと思う。笑いのセンスが作り物ではなく、元々自身に感覚として備わっているから成せる技だろう。君は戦闘にいる。恋という戦闘のさなかにいる。誰がそれを笑うことが出来ようか。君は炎上している。この言葉は、自分の背中に彫りたいと思えるほど美しく、強い。


宮本輝(みやもとてる)

 1947年(昭和22年)生まれ。神戸出身。本名は正仁(まさひと)。

 52年「泥の河」で第13回太宰治賞を、翌53年「螢川」で第78回芥川龍之介賞を受賞。62年には「優駿」で第21回吉川英治文学賞を、平成16年には「約束の冬」で第54回芸術選奨文部科学大臣賞を受ける。

<語ること>と生きること―宮本輝の短編の魅力  管 聡子『宮本輝全短編 解説より』

 宮本輝の短編全体を概観すると、大きく二つの特徴を見て取ることができる。一つは、一人称の語り手を持つものが多いこと、もうひとつは、大人になった自分が、少年の頃、あるいは青春のときを回想するというスタイルをとるものが多いことである。言い換えれば、宮本輝の短編は、つねに少年のまなざし・視座を内包している。

文春文庫解説 森 絵都

 主人公の<私>が高校時代に陥った地獄の日々を回顧する。父親の暴力に起因する頭痛に苦しむ母親が、よかれと思った兄の助言で酒を口にする。たちまちアルコール中毒となり、金を持てば酒で使いはたし、酔っては市電のレールに寝転んで「轢いてえなア」と肌も露わな醜態を晒す。父親はとうに蒸発しているし、兄の助けも得られない。この辛苦を極めたどん底で、<私>はもはや母と言えない母と暮らすアパートの階段に来る日も来る日も座りつづける。彼にはまだ母親を助ける力はない。母親を殴りたい衝動にも、金への誘惑にもえない。それでも、少なくとも彼は逃げずにそこへ留まりつづける。自らの暴力性やな心から目を逸らすことなく向き合い、母親の側に居続けることで、彼はやはり母親を守っていたのだと思う。

 池川 良一